
岐阜県美濃市。その中央を流れる長良川の支流である板取川の豊かな水から、美濃の和紙は生まれます。今回はマンガアートのコロタイプ印刷に適した大きく厚い紙を漉いてもらうため、天日での板干しではなく機械を用いた乾燥を行うなど、独自企画の「美濃紙」を制作いただきました。
今回、制作していただいたのは寺田幸代さん。本美濃紙保存会の澤村正さんから、7年間、和紙作りを学び、独立。伝統的な手法で紙作りを続ける一方で、新しいことにもチャレンジされています。
工程1:ちりとり
紙の原料になるのは、クワ科の植物である楮(こうぞ)。美濃紙では、茨城県で栽培された大子那須楮(だいごなすこうぞ)が多く用いられます。繊維が長く、強く、美しい。この楮を水に浸し、煮て柔らかくしてから、残っている皮やごみなどを取り除きます。「ちりとり」と呼ばれるこの作業を行うことで、白い紙が生まれます。今回、ちりとりにかけた時間は、約9日間。この楮から約100枚の紙を漉いていただき、そこから選りすぐった55枚を納品いただきました。
工程2:ねべし作り
茨城県産のトロロアオイの根を叩いてつぶし、水に浸けて、粘液を抽出します。「ねべし」と呼ばれるこの粘液を混ぜ合わせることで、楮の繊維が均一に絡み合い、平滑な和紙の表面が生み出されます。
工程3:叩解(こうかい)1
叩解(こうかい)は、原料をたたき潰したり切ったりすることで、紙の製造に適した性質を与えることをさします。まず木槌で、楮を叩いてほぐします。木槌には放射状に突起がついており、叩いた面には花のような模様が刻まれます。今回はこの作業に約半日をかけました。
工程4:叩解(こうかい)2
次にナギナタビーターと呼ばれる機械で、繊維を細かくほぐします。薙刀のような形をした刃が複数ついていて、これらの刃で、繊維どうしを解きほぐしていきます。
工程5:紙漉き
紙漉きのための板状の道具は「簀桁(すけた)」呼ばれます。水に楮とねべしを入れ、しっかりと混ぜ合わせたものを、この簀桁で漉き上げます。今回のマンガアート用の和紙を漉くために用いられる京間判の簀桁には、太さ約0.6mmの竹ひご約2000本が使われています。この竹簀から、和紙の繊細な表情が生まれます。
通常の紙漉きは、縦方向にのみ簀桁を揺らします。これに加えて、ゆったりと横方向にも簀桁を揺らすのが、美濃の紙漉きの特徴。これによって繊維が均等に絡み合い、障子などで陽の光を通したときに見えるテクスチャーまでもが美しい紙になります。
さらに今回は、集英社マンガアートヘリテージの「MA」のロゴを透かしとして入れていただきました。切り抜いた型紙を、簀の上に敷いた「紗(しゃ)」と呼ばれる薄い絹のシートに取り付けることで、型紙の部分の紙が薄くなり、透かし模様が現れます。
漉き終わった和紙は、紙床(しと)の上に置き、約半日のあいだ圧力をかけて脱水していきます。
工程6:干し
漉いた和紙を乾燥させます。乾燥には鉄板乾燥機を用います。 伝統的な和紙制作では、栃(とち)の一枚板に貼り付けて天日干しを行いますが、今回は厚みのある紙の制作で、しかもコロタイプ印刷のための平滑な表面が求められるため、乾燥機を用いました。気温や湿度などによって乾燥時間や乾燥温度の調整が求められます。寺田さんからは、次のようなコメントをいただいています。
「紙漉きのお仕事はいつでも気の抜けない作業の積み重ねですが、今回特に気を使ったところは、ねべし合わせです。 紙漉き直前の準備になりますが、ここをきっちり押さえると、表面のインクの色の感じや透かしのMAの柄の出かたが変わってくるからです。良い紙になるように気持ちを込めて漉きました。より良いものになっていたら嬉しいです」
Movie by Toyokazu Fujita (HIORYES Inc.)