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ヴェネツィアの展覧会「PERSONAL STRUCTURES」と『ジョジョ』の熱狂(TALK 1)

サラ・ダニエリ(ECC Italy)×石上賢(B-OWND) ×岡本正史(SMAH)による、ヴェネツィアでの『ジョジョ』マンガアート展示トーク。

ヴェネツィア・ビエンナーレ。イタリアの都市ヴェネチアで二年に一度開催されるその催しは、120年以上の歴史を持つ。今年は世界40ヵ国以上から現代アートを代表するアーティストたちが集った。

「PERSONAL STRUCTURES」は、ビエンナーレのサテライトイベントのひとつ。ヨーロピアン・カルチュラル・センター・イタリア(ECC Italy)が主催するコンテンポラリーアートの展覧会である。そこで、空間づくりを生業とする丹青社がサービスを提供する日本のアート・工芸のの新しいプラットフォームであるB-OWND(ビーオウンド)と、集英社マンガアートヘリテージ(SMAH)がコラボレーション展示がおこなれている。B-OWNDは、伝統工芸にルーツをもつ日本のアーティスト6名と、茶の湯を再解釈するアートコレクティブを展示。SMAHは荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』のマンガアート作品を出展。第2部と第5部で主人公たちが訪れる地の、しかも歴史的建造物である「ベンボ宮」での展示は、熱狂的ともいえる人気を集めている。

今回は、本展を共につくりあげた関係者たちの談話を通じて、展覧会の詳細をお届けしたい。まずは、展覧会を主催するECC Italyのディレクターのサラ・ダニエリさん、展覧会を企画・運営したB-OWNDの石上賢さんと、マンガアートのコラボレーションを行ったSMAHの岡本正史による鼎談を行った。

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PERSONAL STRUCTURES展オープニングでのサラ・ダニエリさんと石上賢さん


サラ・ダニエリ(Sara Danieli)
ヨーロピアン・カルチュラル・センター・イタリア(ECC Italy)共同ディレクター。イタリア支部でアート部門の責任者を務める。現代アートや建築の国際展「PERSONAL STRUCTURES」を統括するメンバーの一人。ECCは、オランダに本部を構える非営利団体で国際的に活動を続けており、2011年からはヴェネツィアで本プロジェクトも実施している。
https://personalstructures.com/

石上賢
B-OWND(ビーオウンド)プロデューサー。国内外での展覧会企画やアーティストとの協業を通じ、伝統工芸の新たな見せ方を提案している。丹青社の新規事業として2019年に立ち上げられたB-OWNDは、SMAHも協業するスタートバーンのアートブロックチェーンサービスと連携し、日本の伝統工芸をアート作品として国内外に発信している。
https://www.b-ownd.com/



『ジョジョ』が芸術の都・ヴェネツィアに巻き起こした衝撃

サラ:今回のPERSONAL STRUCTURESでの『ジョジョの奇妙な冒険』の展示の反響には驚かされました。問い合わせの電話も連日のように入るし、展覧会の動画もイタリア中でアップされています。まさに熱狂的。私たちの歴史の中でも初めての事態です(笑)。

SMAH:初日オープンの1時間以上前から、ベンボ宮の前に長い行列ができました。現地の方々の熱気がすごかったですよね。

サラ:日本からのお客様も多いです。先週も、会場へ行ったらいくつかのグループの方々がいて、まず荒木飛呂彦先生のアートプリント作品を見たあと、解説をスマホで翻訳しながら丹念に読まれて、それぞれの部屋で長い時間を過ごされていて……。素晴らしい場面に立ち会えました。

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ベンボ宮での展示風景

サラ:『ジョジョ』の作品が壁面だけでなくフロアに自立しているように展示されているのは、それ自体が一つの表現ですよね。鑑賞者の目線の高さに作品があることで、深く対峙できる感覚がある。それだけでなく、ベンボ家の部屋をそのまま使うこと、第2部で実際に登場するリアルト橋が見える空間であること。すべてのディテールに、いろんな意味のレイヤーがありました。

SMAH: キュレーターのサラさんにそう言っていただけるとうれしいです。現地に来られた荒木先生も、ヴェネツィアでの展示に満足されていました。

サラ: はい。それはもう、たくさん笑顔を見せていただき、楽しんでいらっしゃる様子が伝わってきました。先生はアートだけでなく、イタリアの人々の様子や食事も気に入っていましたし、私はそこに立ち会えたのも光栄でした。ジョジョにみなぎる情熱、キャラクターや冒険の背後にあるテーマは、かけがえのないものだと思っています。

SMAH: 石上さんは、現地で無事オープニングを迎えていかがだったでしょうか? 昨年から長い時間をかけて作った展示でしたね。

石上: ヴェネツィアは大好きな場所です。ここはアートにおいて歴史のある特別な街であり、アーティストである父も影響を受けた場所でもあって。僕は大学生の頃は、ルネサンスに関する論文も書いたくらいでした。だから、そんな土地でプロデューサーとして展覧会を行うことにすごく興奮したし、できあがったときは感動で泣きそうになりました(笑)。


工芸とマンガアートがヴェネツィアに渡った理由

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ベンボ宮でのB-OWNDとSMAHのコラボレーション展示

SMAH:まず展覧会のテーマのことから話したいと思います。PERSONAL STRUCTURESのテーマは「Confluences(合流)」。そのなかでB-OWNDは「Relational Logic(関係の論理)」をテーマに展示されました。工芸やお茶にまつわる日本のアーティストと、マンガが交わる内容です。石上さん、B-OWNDとしてはどんな狙いで構成を考えたのでしょう? 

石上: そうですね。最初の展示室の話が分かりやすいかと思います。そこでは、3つの日本文化の「視点」を伝えたかった。1つ目は茶道、2つ目は工芸、3つ目がマンガ。ジャンルとしては一見ばらばらですが、深いところに共通点があります。

たとえばそこでお茶の道具として使われる工芸作品が、展示を進んでいくと、鑑賞するものとして置かれている。一杯のお茶を飲むことは日常的な行為ですが、アートの文脈におかれることもあるし、神聖な儀式にもなるということです。

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B-OWND、Art Collective TeaRoomの茶会

マンガ文化も同じで、大衆文化の代表である一方で、アートとしても分類しうるもの。つまり、日常的であると同時に、儀式的・芸術的なものにもなる。そこにある境界線と共通点を示したかったんです。

サラ: ここまで柔軟に、ユニークなアーティストが集う展覧会を作れるチームは多くはないと思っています。私たちの目的のひとつは、創造的な対話を生み出すこと。このプロジェクトは、そんな新しい対話の場になると思いました。

SMAH: そもそもの始まりは2024年12月の、マイアミのアートフェア「SCOPE」だったんですよね。そこでB-OWNDとSMAHの初めてのコラボレーション展示を行いました。永井豪先生の『マジンガーZ』と、古賀崇洋さんのコラボレーションの酒器などを展示しました。サラさんがその展示を見たのが最初の出会いだったそうですが、サラさん、その時のことを教えてくれますか?

サラ: アートフェアは、マーケットの場でありながら、新しい才能に出会える機会であり、学びの場でもあります。マイアミのフェアは2019年以来欠かさずまわってるんですが、B-OWNDは衝撃でした。

展示は、エントランスから入って右手の方でしたよね。各ギャラリーの主張がどちらかというと強めで賑やかななか、空気がはっきりと違っていた。いろんなフェアをまわって忙しないマイアミの方たちも思わず足を止めて、その場に流れる時間を楽しんでいました。

石上:茶会と展示の2つのブースに分けていましたね。マイアミでは「アートと工芸の境界線」がテーマでした。

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SCOPE Miami Beach 2024でのB-OWND 展示風景

サラ:作品を通じたアーティストたちとの対話と、そこにしかない体験をつくる場でした。そのスタイルと、誰でも受け入れてくれるような温かい空気に惹かれました。

SMAH:その出会いが、今回のプロジェクトにつながっていったんですね。

サラ: そうです。メールやWeb会議でやりとりを始めましたが、ヴェネツィアで実際に会った時の印象は、オンラインとは全然違って(笑)。持ってきた陶芸作品で小さなお茶会までしてくれました。あれはたしか、2025年の5月の暑い日でしたね。

その時の石上さんとの会話が刺激的でした。ヴェネツィアは、新しい建物を建てられなくって、15世紀や16世紀からの古い建物ばかり。だから今も伝統に根ざした文化が生きている。その一方で現代的な化学反応も起き続けていて、世界でも重要な現代美術のプラットフォームになっている。石上さんのプロジェクトも「伝統工芸を現代に活かし続けるためのアプローチ」です。それは、ヴェネツィアの地域性に通じることだ、と。


「マンガは祭壇画に通じる」現地ディレクターが感じたマンガの力

石上: ここ3年ほど海外の取り組みを続けてきましたが、今回はヨーロッパで初めての大規模な展覧会。しかも、一番思い入れのあるイタリアで。私としてもこの展示自体、本当に驚くような出来事でした。

サラ: 2025年7月にも、会場の採寸のため来ていただきましたね。展示作家のTeaRoomのメンバーも一緒に。皆さんでベンボ宮を採寸して、お茶のことや、展示プランについてお話しして。そこでの提案は正直、かなり挑戦的で、見たことがないものばかり。空間デザインのプロフェッショナリズムを感じました。

SMAH:B-OWNDが所属する丹青社は、空間設計の老舗ですしね。現地の設営の方々とも、阿吽の呼吸で施工を進められていました。

サラ:会場は14世紀の宮殿ですから、文化財保護局の規制や承認があって、何でも自由にできるわけじゃない。ですが、アイデア通りにいかない局面でも、お互いが納得できる案を見つけて作っていく。そのやり取りが気持ちよかったです。前向きで刺激的な共同作業でした。

SMAH:サラさんは、あの格式高い部屋――かつてベンボ家が書斎や読書室として使っていた部屋に『ジョジョの奇妙な冒険』の展示することになったことについて、どう思いましたか?

サラ: 実は、あの部屋をあんなふうに使うとは、全く想像してなかったんです(笑)。京都のお寺(東本願寺 白書院)での展示写真を見ていたので、そのイメージで考えていて。でも後から、展示の意図を完全に理解できました。

ベンボ家の紋章があるあの部屋は、宮殿のなかでも特別な部屋なんです。ルネサンスの詩人で学者でもあったピエトロ・ベンボは、現代のイタリア語の書き言葉としての基礎を作ったとされる人物で、言葉や言語にまつわる歴史を持つ部屋で展示ができたのは、意味深いことでした。

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ベンボ家の紋章がある部屋での『ジョジョ』展示風景

SMAH:居室として使われていたときの姿にできるだけ近い形に戻したい、というのが我々のこだわりでした。あの壁紙も、イタリアデザインのものを取り寄せて、新しく貼ってもらったものなんですよね。

サラ:今回貼られた壁紙と、イタリアのメーカーであるFLOSのシャンデリアの組み合わせ、私は大好きです。あの部屋とのつながりを考えていくと、マンガもひとつの「言語」であり、コミュニケーションの方法なんですよね。何世紀も昔から教会にある宗教画や祭壇画って、文字が読めない人たちに聖書の物語を届けるものでした。マンガにも、それに通じる力があります。言葉に加えてキャラクターやビジュアル、象徴性、そしてストーリーを通じて、独自の視覚的な言語を作り出すわけですから。

SMAH:サラさんはもともとマンガに詳しかったわけじゃないんですよね。

サラ:そうです。それまではマンガとの縁もそんなになく、最初は、日本の出版社とのコラボレーションという状況も具体的に想像がつかなかった。ですが、リサーチをしながら進めるうちに、マンガが今回のプロジェクトの中で、そして日本文化の中でどれだけ重要かを理解して、数ヶ月経った頃には、この展示のチャレンジの意義深さを実感しました。


多様な文化と人が合流していくこの土地から

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PERSONAL STRUCTURES展でのレセプションの様子

SMAH: このプロジェクトでは、人とのつながりもとても重要です。オープニングセレモニーやレセプションでは、世界中から集まった人々と、とても率直に、フレンドリーに話ができました。この地から、これまでにないプロジェクトが始まったのだなと感じています。集まった人たちとの出会いについては、どう感じていますか?

サラ: レセプションでは、日本のチームの方々をはじめ多くの偶然の出会いがありました。ここからまた新しいプロジェクトが生まれていくのだと思っています。

人がヴェネツィアで出会うということにも、思い入れがあります。国も文化もバックグラウンドも違う人たちが、この場所をどう捉えて、どう理解するのか。それを見られるから。ここは東京のような巨大な街ではなくって、小さな村が集まったみたいなスケール感の場所。だからこそ、B-OWNDが示されたような文化の多様性が活きる場所でもある。

石上: ヴェネツィアは東洋と西洋の架け橋であり、最新のアートだけでなく、思想や哲学を世界中に発信していた場所ですよね。細かい歴史を知らなくても、そんな文化性を肌で感じられる街です。ここに集った方たちとも、文化や哲学、この場所の意味について、とてもオープンに深く話せました。

ヴェネチア・ビエンナーレも行われている今、いろんな文化の流れがこの地に合流してきている。日本の文化とイタリアの文化が、工芸・マンガ・現代美術・茶道において、ひとつに重なり合った実感がありました。

サラ: それはまさにPERSONAL STRUCTURESのコンセプト、Confluences(合流)ですね。見事な説明、ありがとうございます(笑)。

「TALK 2」に続く

構成:大澤景

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ヴェネツィア、サンフランシスコ、京都、東京での展示の様子を収めた作品集
荒木飛呂彦『JoJo’s Bizarre Adventure manga art exhibition / 2025-2026』
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