作品について
「ONE PIECE」には、紙を横につないで描かれた作品が複数存在する。
「The Scroll」シリーズの第一弾として選ばれたのは、「ONE PIECE」連載20周年を記念して刊行された「ONE PIECE magazine Vol.1~Vol.3」に収録された3枚の描き下ろしカラーイラスト。
多くのファンに愛され、ポスターやグッズ、フィギュアなどにもなってきたイメージ。
このイメージを、可能な限り美しく、可能な限り未来に届ける。このために、特別な紙と特別な印刷が選ばれた。
紙は、手漉きの越前和紙。
印刷は、コロタイププリント。
より迫力のある作品にするため、原画を拡大。ビビッドな色彩を再現するため、1枚につき16~17版という、通常の商業印刷の4倍の版を用いた。美しく強靭な和紙でなければ、10回を超える印刷には耐えられない。国宝や重要文化財の複製を数多く行なってきた便利堂コロタイプ工房でも、この数の版を用いるのは初めての試みであるという。イメージをブレることなく正確に合わせてプリントするのは、熟練の職人技術による。
これを3枚分。
計50版を用いた、史上初の作品が完成した。
*作品は3枚セット。布貼の化粧ケースに収納。
*ブロックチェーンNFT連携販売証明書を同梱。
*作品裏面にIDシールを添付。
*イメージが画面全体に描かれた作品のため、作家サインや押印はありません。
*額装や巻子装は別途となります。3枚のプリントを1枚につなぐ表装や、巻子装については、集英社マンガアートヘリテージ トーキョーギャラリー(麻布台ヒルズ)で承ります。
1992年『WANTED!』で週刊少年ジャンプ・手塚賞受賞。1997年『ONE PIECE』の連載を開始。同年コミックス1巻発売。1999年にテレビアニメ化される。2012年、初の展覧会『ONE PIECE展』を開催。
1992年、『WANTED!』で第44回手塚賞準入選(「月火水木金土」名義)。
1993年、『一鬼夜行』で第104回ホップ☆ステップ賞入選。2006年、 『ONE PIECE』で日本のメディア芸術100選マンガ部門選出。2012年、 『ONE PIECE』で第41回日本漫画家協会賞大賞受賞。2018年、 熊本県民栄誉賞。
「ひとつなぎの大秘宝」をめぐる海洋冒険ロマン。モンキー・D・ルフィが海賊王を目指す。1999年テレビアニメ化。2015年6月15日、「最も多く発行された単一作家によるコミックシリーズ」としてギネス世界記録に認定。全世界累計発行部数は、2022年8月時点で5億部を突破している。

コロタイプ プリント
コロタイプは、1855年にフランスの科学者アルフォンス・ポアテヴァン(Alphonse Poitevin)によって発明され、19世紀末から絵はがき、アルバム、美術品の図録などに広く用いられた印刷技法である。実用化された写真製版技法としては最も古いものとされ、定着されたイメージが100年以上残ることが歴史的に実証されている。このため、京都の寺社仏閣の修復記録資料には、コロタイプ印刷による写真が現在でも添付される。
1887年、明治時代創業の便利堂(京都)は、現在でもカラーのコロタイプ印刷を行う、世界で唯一の工房を持つ。法隆寺金堂壁画の原寸大撮影などを行なってきたこの工房に、製版と印刷を依頼した。
マンガアートの制作では、高解像度デジタルカメラ〜大判ネガフィルム〜ガラス刷版〜専用顔料インク〜コロタイプ印刷機が用いられる。
撮影にはPhase Oneの高解像度カメラを使用。フラットベッドスキャナでの取り込みでは記録できない淡い色彩や紙のテクスチャーまで、取り込むことが可能になった。商業印刷で主に用いられるオフセット印刷では、CMYKの4色・4版が用いられることが多い。一方、集英社マンガアートヘリテージのアートプリントでは、作品にあわせ、20色・20版を超える版が使用されることもある。
ソフトウェアで色分解を行ったあと、色と色が重なる部分をレタッチしていく。例えば肌色の上にキャラクターの輪郭線や髪の毛が描かれている場合、データそのままではほんのわずかな版ズレで紙の白地が見えてしまうとともに、色の重なりで生み出される奥行きが表現されない。このため、データ上では白く抜かれている部分を同色の肌色で補筆していく。自動で行えない作業のため、すべてスタッフの手で行われる。
久保帯人「BLEACH/The Millenium」(2022)製作風景できあがったデータをプリントサイズと同寸で、大判のネガフィルムに出力する。ネガを確認し、仕上がりの調整が必要と思われる箇所には、鉛筆でネガに直接グラデーションやディテールを描き込む。
久保帯人「BLEACH/The Millenium」(2022)製作風景コロタイプは、かつては「玻璃版(はりばん)」と呼ばれていた。「玻璃(はり)」は、ガラスの古称。ガラス板にゼラチン感光液を流し、上下左右に振って表面に均等に塗布する。主に使用されるガラス板のサイズは「695cm×455cm×厚さ10mm、重量約9kg」「1250cm×720cm×厚さ10mm、重量約24kg」。ガラス板は摂氏60~65度、湿度約20%に調整された乾燥庫に約1時間置かれ、製版可能な状態になる。
感光台の上にネガフィルムを置き、ガラス板を載せ、ラバーシートをかぶせる。空気を抜いて圧着させ、台を回転させて、上から紫外線を照射する。感光させた後、ガラス板を台から取り外し、流水で洗浄する。こうしてできあがった刷版には、微細な「しわ」が現れている。オフセット印刷やグラビア印刷、インクジェットプリントなどでは、小さな点の集まりによって色や線が表現される。一方、コロタイプ印刷では、この「しわ」に抱き込んだインクの量で濃淡が表現される。顕微鏡で拡大しても網点が現れない滑らかなグラデーション表現が、コロタイプ印刷の特徴のひとつである。
久保帯人「BLEACH/The Millenium」(2022)製作風景便利堂では、三谷製作所(愛知)製の印刷機4台と、広瀬鉄工(大阪)製の大判印刷機1台が稼働している。三谷製作所の印刷機は1950〜1970年代に、広瀬鉄工製の大判印刷機は1995年に導入された。大判印刷機の最大プリントサイズは24×48インチ(約600×1200 mm)。その他の印刷機の最大プリントサイズは20×24~25インチ(約500 × 600~635mm)。円圧式と呼ばれる印刷機で、平らな版に対して円筒状の「圧胴」が回転しながら圧力をかけて印刷する。
印刷には、コロタイプ印刷専用の顔料インクを用いる。三星インキ(大阪)製造。顔料の含有率が60%と、非常に固いインクであり、耐光性・耐候性ともに優れている。
ヘラを使って手作業で伸ばし、印刷機の金属プレートに均等に塗布する。ガラス刷版にはスポンジで水を含ませる。ゼラチンは水を与えると膨張するが、感光して硬化した部分は膨張しない。油性の顔料インクと水は反発するので、光を強く受けた部分は水分が少ないためインクを多く抱き、光を受けなかった部分は水分が多いためインクを抱かないことになる。これが濃淡の差となり、豊かな階調表現が可能になる。
給紙は一枚ずつ、手差しで行われる。用紙によって紙の特性が異なるのはもちろん、季節や気候によっても、印刷特性が変わってくる。手漉きの和紙を用いる場合、一枚ずつ微妙に紙の厚みも異なる。このため、紙を印刷機に通す前に、紙を適度に丸めて癖をなおし、印刷機の中の通りを均一にする。
久保帯人「BLEACH/The Millenium」(2022)製作風景便利堂では国宝や重要文化財の複製を製作することが多かった。マンガのカラーイラストレーションで使用される鮮やかな色彩を用いたプリントは初めてのチャレンジとなった。20版を超える版を用いたプリントでは、版ズレをおさえることはもちろん、この多色刷りに和紙が耐えられるのかも問題になった。ルーペで印刷面を一枚ずつ確認しながらのプリントが行われた。
尾田栄一郎「ONE PIECE / The Scroll 壱」(2024)制作風景