作品について
マンガの絵の部分を金属板(亜鉛版)に腐食製版し、ふきだし部分を糸ノコでくり抜いて、そこに「文選」した活字を埋め込む。文選とは、原稿にあわせて活字を一文字ずつ拾い並べる仕事である。まるでグーテンベルクの時代にさかのぼったような話だが、1970年代後半まで、この作業は普通に行われていた。
永井豪『マジンガーZ』連載スタート時の「週刊少年ジャンプ」にも、金属版と金属活字が使われている。
ただ、こうした話は伝わっているものの、印刷の現場では亜鉛版も活字も溶かされて再利用されるため、我々が探す限り実物は現存しておらず、写真も見つけられない状態だった。嘉瑞工房(東京・新宿)の協力により、マンガ原稿の亜鉛版を現在でも制作できる会社が見つかり、我々は金属板×活字によるマンガの印刷を再現することができた。
当時の雑誌は活版輪転機で再生紙に印刷されており、活版平台印刷機でコットン100%の紙に刷られた作品は存在しない。いわばオーパーツ(OOPARTS;Out Of Place ARTifactS=場所や時代にそぐわない発見物)であるこのアートプリントを、版を撮影した写真とともにセット販売する。
写真は便利堂(京都)によるコロタイププリント。触ったときに凹凸が感じられるよう、インクを持ってプリントされている。
*活版印刷作品表面に永井豪のサイン(直筆)
*写真作品(コロタイププリント)とのセット販売です。
1967年『目明しポリ吉』(「ぼくら」掲載)でデビュー。1968年『ハレンチ学園』を「週刊少年ジャンプ」で連載開始。社会現象となる。1972年にはテレビアニメーションの企画と同時並行し『デビルマン』を「週刊少年マガジン」に、『マジンガーZ』を「週刊少年ジャンプ」に連載する。1973年には『キューティーハニー』を「週刊少年チャンピオン」で連載。ギャグ・コメディからダークファンタジー、SF、ホラーなどその作品は多岐にわたる。2024年現在も連載作品を持つ。2019年には、フランス政府から芸術文化勲章(シュヴァリエ)を授与された。
主人公が巨大ロボットに搭乗し、異形の敵と戦う。
1972年。永井豪は、テレビアニメーションとマンガ連載の企画を同時並行で立ち上げ、その作品世界とキャラクターグッズをつなぐことで、現在につながる巨大ロボットの作品世界とマーケットを創造した。ここから始まった流れは、『ゲッターロボ』(1974–)、『機動戦士ガンダム』(1979–)、『新世紀エヴァンゲリオン(1995–)』へと繋がっていく。
『マジンガーZ』に続き、『グレートマジンガー』(1974)と『UFOロボ グレンダイザー』(1975–)がシリーズ続編として制作され、アジア〜ヨーロッパ〜中南米で大ヒット。グレンダイザーは『グレンダイザーU』として2024年に再びアニメーション作品化された。

イメージが反転した金属板。吹き出しに埋め込まれた活字。
マンガファン、マンガ研究者であっても、このイメージを見た者は稀だろう。戦後〜1970年代頃まで行われていた、マンガ製版と組版。印刷・製版会社のベテラン社員や編集者から伝え聞くことはあっても、実物も記録写真も見つけられなかったこの技法を、我々は復活させた。
現在、マンガ展などでよく見られる原稿は、作家が描いた絵に、写植(写真植字)の印画紙を貼り込んだものだ。多くの人が思い描くマンガ原画のイメージは、ふきだし部分に文字が貼られた、このイメージだろう。しかし写植が発明されて普及する前、マンガの組版と印刷は違う方法で行われていた。
マンガの絵の部分を金属版(亜鉛版)に腐食製版し、ふきだし部分を糸ノコでくり抜いて、そこに「文選」した活字を埋め込む。文選とは、原稿にあわせて活字を一文字ずつ拾い並べる仕事である。まるでグーテンベルクの時代にさかのぼったような話だが、1970年代後半まで、この作業は普通に行われていた。1976年に「週刊少年ジャンプ」に連載を開始した秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の第一話も、活字で組版されている。
ただ、こうした話は伝わっているものの、印刷の現場では亜鉛版も活字も溶かされて再利用されるため、我々が探す限り実物は現存しておらず、写真も見つけられない状態だった。2022年。嘉瑞工房(東京・新宿)の協力により、マンガ原稿の亜鉛版を現在でも制作できる会社が見つかり、我々は金属板×活字によるマンガの印刷を再現するプロジェクトをスタート。腐食亜鉛版の制作〜活字鋳造〜活字組版の組込〜活版印刷にわたる工程を動画におさめた。
1970年代の「週刊少年ジャンプ」の製作に用いられていた亜鉛版と金属活字による活版印刷を復活させ、コットン100%のハイクオリティペーパーにプリント。版を撮影した写真のコロタイププリントとあわせて作品化。
