作品について
深い緑の中に咲く黄色い花の前の、可憐な少女。
男装をして聖セバスチアン教会付属音楽学校に通うユリウス。人に明かせない秘密を抱えながら生きる彼女の、強さと脆さの両面が滲み出るかのようなポートレイトである。
尖った襟は、池田が好んで描く衣装だが、ここではその襟がユリウスの細い左手首に突き刺さるかのように見える。黒いレースの縁取り、豊かなドレープから感じられる柔らかさと対照的だ。
複雑な内面描写は、どこからくるのか。
試みに、彼女の顔の左半分を隠してみると、微笑んでいるように見える。
次に、右半分を隠してみると、こんどは寂しげで怒っているように見える。
これらふたつの表情が、ひとつの絵のなかに溶け込んでいるのである。
起こってしまったこと。いま起きていること。これから起こること……。
何かを握ろうとするような左手のしぐさを含め、何か大切なことを彼女から問いかけられているような気持ちになる。不思議な絵である。
*この作品は2枚セットです。
*プリントにサイン(直筆)
1967年、東京教育大学(現・筑波大学)在学中に『バラ屋敷の少女』でデビュー。1972年に「週刊マーガレット」で連載を開始した『ベルサイユのばら』がベストセラーに。1980年『オルフェウスの窓』で日本漫画家協会優秀賞を受賞。40代で音楽の道に進むことを決意し、1995年、東京音楽大学声楽科に入学。卒業後、ソプラノ歌手として舞台に立ち、オペラの演出も手がける。2009年、フランス政府からレジオン・ドヌール勲章を授与される。
池田理代子は「『ベルサイユのばら』は代表作、『オルフェウスの窓』はライフワーク」という。1975年1月に「週刊マーガレット」で連載が開始された『オルフェウスの窓』は、第2部から掲載誌を「月刊セブンティーン」に変え、1981年に第4部が連載終了するまで、約7年間にわたって描かれた。コミックス単行本全18巻にわたる長編である。1980年、第9回日本漫画家協会賞優秀賞受賞。1983年、宝塚歌劇として舞台化。

アーカイヴァル インクジェット プリント
マンガの原画、特に染料系のマーカーで着彩されたカラーイラストレーションは、非常に褪色しやすい。マンガ雑誌の表紙や口絵、コミックスのカバーのために描かれるイラストレーションは、もともと原画そのものが展示〜鑑賞されることを前提に描かれてはいない。印刷され、雑誌やコミックスとして読者の手元で見られることを想定して制作されているのである。線画をコピーしたうえに着彩されているものも多く、キャラクターと背景で切り貼りされているものもある。変色した色の修正を含め、これらの作品化にあたってはレタッチが必要となる。

2008年からマンガのデジタルアーカイブを進めている集英社では、当初は高精度スキャナEverSmart Supreme II、2015年からは高解像度のデジタルカメラPhase One IQ180により、カラー原画をキャプチャーしている。2020年からはPhase One のCultural Heritageシリーズを使用。商業印刷では再現できない色の領域まで撮影〜保存することができ、絵が描かれた紙のテクスチャーまでも取り込むことが可能である。
このデジタルアーカイブデータと撮影機材を活用し、原画が描かれた当時の色彩を復元すべくレタッチ。原画〜データ〜プリンタをつなぐ適切なカラーマネジメントを行い、プリントを行っている。
またデジタル作画された作品においては、商業印刷で一般的なsRGB領域ではなく、より広い色域を持つAdobe RGB領域でのカラーマネジメントとプリントを行い、深く鮮やかな色を表現している。
