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「Art Collaboration Kyoto」とマンガアート(TALK 1)

手錢和加子×周防貴之×岡本正史(SMAH)による、「Art Collaboration Kyoto」(以下、ACK)と集英社マンガアートヘリテージのコラボレーションにまつわるトーク。

2021年にスタートしたACKは、その名の通り「コラボレーション」をコンセプトにした京都のアートフェア。国内ギャラリーが海外のギャラリーをゲストに迎えて共同出展することに加え、ACKと企業などとのコラボレーションによるプログラムを実施。これまでにないスタイルの国際的なアートフェアとして、京都府と協働しながら開催を続けている。

SMAHは、ACK 2025にて初参加。ACK×SMAHのスペシャルプログラムとして、国立京都国際会館の本会場では、田名網敬一×赤塚不二夫のコラボレーション作品を中心にしたブース「MANGA ART Kaboom!!」を展開。同時に市内の東本願寺白書院、便利堂コロタイプギャラリー、京都アンプリチュード、大丸京都店でも展示を行った。尾田栄一郎『ONE PIECE』、荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』、岡崎京子×伊藤若冲、久保帯人『BLEACH』、池田理代子『ベルサイユのばら』、永井豪『マジンガーZ』と、ヴァリエーション豊かな展示は多くの人を魅了した。2026年は、11月7日〜9日に行われるACK 2026と合わせて、京都市指定有形文化財・八竹庵での展覧会を予定している。

そこで今回は、集英社マンガアートヘリテージ トーキョーギャラリーのラウンジスペースにて、ACKのパートナーシップディレクターの手錢和加子さんと、会場の空間デザインを手がける建築家の周防貴之さんと、SMAHの岡本正史による鼎談を行った。2025年の展示を振り返りつつ「そもそもアートフェアとは何か?」というところから、ACKの特徴、マンガアートの持つ特性、そして11月に開催を控えるACK 2026まで、全3回でお届けする。

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手錢和加子(てぜん・わかこ)写真左
TEZEN 代表取締役、アートプロジェクトディレクター。都内の現代美術画廊で勤務した後、2008年にアート・マネジメント・コンサルティングを行うTEZENを設立。以来15年以上にわたり、日本の近現代美術に関するプロジェクトの企画運営に携わる。ACKにおいては、立ち上げ時の2020年よりVIPリレーションズおよびコーポレートリレーションズのリーダーを務める。2026年4月よりパートナーシップディレクターに就任し、7名からなるリーダーシップコミッティーの一員として運営に参画。

周防貴之(すおう・たかゆき)写真中央
建築家、SUO代表。妹島和世建築設計事務所・SANAAを経て、2015年にSUOを設立。建築設計を中心に活動し、アーティストや様々な作家との協働による建築プロジェクトや、現代アートの展覧会の展示構成も多く手がけている。ACKには立ち上げ時より参画し、2021年の第1回から空間デザインを担当している。


ACK 2025に出展された「MANGA ART Kaboom!!」とは

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2025年 ACK会場風景 Courtesy of ACK, photo by Moriya Yuki

集英社マンガアートヘリテージ・岡本正史(以下、SMAH):2025年に初めてACKに参加して、田名網敬一×赤塚不二夫のグラフィックを全面につかった展示ブースをつくりました。グラビア印刷によるプリント作品を超高解像度のカメラでマクロ撮影して一枚に合成。巨大な出力をしてもらいました。遠くから見ると、アッコちゃんの目の部分を切り取ったものなのですが、近寄ってみると網点が見えてくる。マンガアートは、様々な印刷技法とコラボレーションしているプロジェクトなので、そこにつながる表現ができたら、と。

手錢和加子さん(以下、手錢):とても存在感がありました。10メートルはありましたよね。マンガアートならではのやり方だったんじゃないでしょうか。

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SMAHによるスペシャルプログラム「MANGA ART Kaboom!!」。SMAHではこの展示に合わせて、東本願寺や便利堂コロタイプギャラリーなどの市内別会場で新作展示を行った。©Keiichi Tanaami Courtesy of NANZUKA ©Fujio Productions Ltd. / Shueisha Inc.

周防貴之さん(以下、周防):ACKの展示空間は、展示を一つひとつじっくり味わえるようなつくり方をしているんですが、SMAHのブースは、キッズプログラムを行う場所でもありました。だから画面の強さが、子供達が集まる場所の意味性も生み出してくれたなと感じています。

SMAH:よかったです。国内アートフェアへの参加は初めてだったんですが、ACKは2024年に訪れて、他のアートフェアにはあまりないような豊かな空間性を感じて参加させていただきました。

SMAHが考える、そもそもアートフェアとは何か? という疑問

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SMAH:今回は「そもそもアートフェアって何なのか?」からお聞きしてみたいんです。というのも、例えば東本願寺での『ジョジョ』の展示をきっかけにACKにも来てくださった方々もいらしたんですが、そうしたファンの方の中には、普段はアートフェアに足を運ばない方もいらっしゃるのではないか、と思います。

あらためて考えてみると、入場料のかかる美術館の展覧会と、無料で見られるギャラリーの展覧会の違いも、明確ではないですよね。さらに、入場料がかかるうえに、高額な作品の販売がされるという「アートフェア」は、馴染みのない方からしたらだいぶ「謎の場所」なのではないか? と思ったんです。アートフェアの仕事をされている手錢さんに、是非、うかがってみたいです。

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手錢:そうですね、詳しく話し出すときりがないので、とても大まかに話してみますね。まず前提として「ギャラリー」、日本語でいうと「画廊」というものがあります。ギャラリー自体も色んなタイプがあって一概には言えませんが、大きな役割のひとつが、所属アーティストを支援すること。展覧会を行って、プロモーションをして、個人の方にコレクションしてもらったり、美術館に作品を所蔵してもらったりしていく。アーティストが鑑賞者の記憶や、歴史に残っていくための仕事をしているといえます。

アーティストのなかにはギャラリーを通さず直接販売をする方もいますが、その場合、膨大な手間が発生します。だから、アーティストが制作に集中するための仕組みでもある。またお客様としても、購入時の相談にはじまり、作品の扱い方の説明や、補修をしたりといったアフターケアも必要になる。作品にまつわるあらゆるサポートをするわけです。

アートフェアは、そんなギャラリーが一堂に集まって、それぞれが、お客様に見せたい作家の作品を展示・販売していく場です。例えば、1970年にスイスで始まった「アート・バーゼル」は最初期のアートフェアであり、その時期から現代アートの市場というものが欧米中心に活性化していきました。時代を経るごとに国際的なアートフェアも増えていって、今では世界中の都市で開催されています。

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2025年 ACK会場風景 Courtesy of ACK, photo by Moriya Yuki

SMAH:なるほど。手錢さんは今はACKのリーダーシップコミッティーの一人となっていますが、元々、ギャラリーで働かれていたんですよね?

手錢:はい。大学を出てすぐに、現代美術のギャラリーに勤めていました。だから最初はアートフェアに出展する立場でした。

アートフェアは、ACKのように現代アートを扱うものもあれば、印象派や古美術に特化するところもある。そのようにジャンルの幅があり、規模も200以上のギャラリーが集まる場もあれば、ACKのように60〜70軒くらいのところもありますし、もっと小規模のフェアもあります。フェアごとのカラーもあり、自分のギャラリーに合うところに出展することで、新しいお客様に出会ったり、ほかのギャラリーとの交流が生まれる場。海外では美術館の方が支援者とともに訪れて、収蔵作品を購入するケースもある。作品が将来に残っていくための役割の一部を担っているんです。


国際美術展・芸術祭とアートフェアの違い

*アートフェア以外にも、大規模なアートイベントとして、国際美術展・芸術祭がある。その定義や用語については一概に決めきれない部分があるものの、大きくは以下のような違いがある(集英社マンガアートヘリテージ編集部)。

・国際美術展/国際芸術祭(International Art Exhibition / Art Festival / Biennale)……1895年以来の歴史をもつ、2年に一度の「ヴェネチア・ビエンナーレ」(イタリア)や、1966年に始まって5年に一度行われる「ドクメンタ」(ドイツ)などが特に知られている。国や都市などが主催し、特定のテーマやキュレーションのもと、世界各国のアーティストによる作品を展示する。ヴェネチア・ビエンナーレのように、国ごとに展示を行う形式もある。世界のアートの潮流を一覧でき、それらの歴史的・社会的な価値を決める基準にもなる一大イベント。
 日本で開催される国際美術展・国際芸術祭としては「横浜トリエンナーレ」「国際芸術祭『あいち』」(旧・あいちトリエンナーレ)といったイベントがあげられる。また、より地域との関係性の深い取り組みとして、新潟の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」などの芸術祭もある。こちらは県や自治体などが主体となり、その土地ならではの作品鑑賞の体験や、地域活性化に重きがおかれることも多い。

・アートフェア(Art Fair)……ギャラリーが主体となる、商業的な見本市としての展示を主目的においたイベント。大手アートフェアとして、スイスのバーゼルに始まって数カ国で開催されている「アート・バーゼル」や、ロンドン、ニューヨーク、ソウルなどで開催される「フリーズ・アートフェア」、オランダのマーストリヒトとニューヨークで開催される「TEFAF(テファフ)」などがある。日本では、2005年から始まった「アートフェア東京」や、2023年から始まった「Tokyo Gendai」などが知られる。


アートフェアのかたちを問い直し、京都のプラットフォームを目指すACK

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2025年 ACK会場風景 Courtesy of ACK, photo by Moriya Yuki

SMAH:最近は、世界的にアートフェアの開催数が膨大になって、ギャラリーも年がら年中出展して忙しいと聞きます。どれくらいの数が行われているんでしょうか?

手錢:アート・バーゼルが出している国際的なマーケットレポートによると、全世界で年間300以上。コロナ禍の頃に一度減ったものの、今は約330件はあると。だけど、様々な経費もかかるものですから、ギャラリーとしては頑張って出展しても年5、6回と言われます。すると、出展を厳選していかないといけない。そうした状況の中で、ACKは現代アートを扱う国際的なフェアとして2021年より始まりました。

SMAH:周防さんは最初からACKの空間デザインを担当されていたんですか?

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周防:手錢さんと一緒に、立ち上げの時期からかかわっています。「普通のアートフェアではないものにしたい」というところからのスタートでしたね。というのも、国内のアートフェアも開催数が非常に増えて、ある種の飽和状態になっていました。展示方法も、壁沿いに直線的にブースがずらっと並んでいて、作品を一望できるような見せ方が多くて、それが一般的なアートフェアのイメージに直結している感覚もありました。そうではない方法で「観る」ということを重視したかったんです。だから「アートフェア」と呼ぶかどうかも議論がありました。

手錢:最初はそうでしたね。主催の実行委員会に京都府が入っていることも大きいのですが「売り買いにおける利便性や、商業的な効率性だけを求めるイベントではないものにしたい」という意志は一貫しています。しかし、多くのギャラリーに参加いただいて売り上げをつくっていかないと続かない性質のものでもありますから、やはり「アートフェア」という看板を立てるようになりました。

SMAH:たしかに、アートフェアの定義をインターネットで調べると「画商が絵を売る場所」と出ますし、販売が大きな目的なのは分かります。ですが、買うのではなく鑑賞だけされるお客様も大勢いますよね。ACKはその部分に特に意識的なのかなと思いますが、売買以外のアートフェアの役割というのは、どのように設定されているものなのでしょうか? 

手錢:開催地の、最先端のアートシーンやアートにまつわるエコシステムを一望できる場であるということでしょうか。その国や地域の特性を活かした、一番鑑賞してもらいたいものをキュレーションする。現地の美術館と連動するツアーを行ったり、その土地ならではの食材を活かした飲食店とコラボレーションしたり……。数が増えた分、アート以外と連携する企画や、多様化も進んでいると思います。

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2025年 Kids’Programs「銅を叩いて、100年続く技に触れてみよう」Courtesy of ACK, photo by Yoshimi Ryo

SMAH:たしかに、SMAHで2023年に出展したニューヨークのアートフェア「Art on Paper」や、2024年に出展したマイアミの「SCOPE MIAMI BEACH」でも、素敵な雰囲気の飲食コーナーもあって、地元の方が楽しそうに行き来する空気がありました。ACKにも、そんな感覚を感じます。海外のギャラリーとのコラボレーションの面白みもありつつ、センスがいいカフェもあったり、地域とも積極的に連携している印象があって。

日本ではベネッセによる直島のアートサイトや、越後妻有や瀬戸内の芸術祭など、地域に根ざして行われる独自のアートイベントがあります。ACKには、そうした地域性への意識もあるのでしょうか?

周防:「どうして京都で行うのか?」は大きなテーマですね。ACKの特徴は、国内と海外のギャラリーコラボレーションに加えて、先ほども触れたように主催に京都府が入っていること。街全体が芸術祭となるように展開していって、公共的な場として開いていく意図が最初からありました。

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手錢:京都は、美大が沢山あって若いアーティストも多いのに、作品の発表や流通を支える環境はまだ十分とはいえません。それで、卒業後に離れてしまう方も多いという課題もあります。だからACKは、アートにかかわる色んな方が行き来できるプラットフォームとして機能させたいと思っています。京都には数多くの文化財という資産もあるので、土地の魅力をより活かしていければ、より可能性が広がるはず。

SMAH:市内のサテライト展示に行くために専用のシャトルバスが用意されていたり、配慮が行き届いていると感じました。土地勘のない人は、なかなか辿り着けなさそうな場所での展示もありましたし(笑)。

手錢:公共交通機関だけでは難しいところもありましたね。それも京都の面白さではあるのですが、その特性が活かせるようなアシストは、できるだけしたいと思っています。

構成:大澤景 鼎談撮影:タケシタトモヒロ