
本展について
集英社マンガアートヘリテージは「and flowers」と題し、岡崎京子のコロタイププリ
ント作品と伊藤若冲の木版画作品をあわせて展示販売いたします。
岡崎京子(1963-) は、マンガの領域を大きく広げた作家のひとりです。
例えば1989 年に描かれた『pink』のあとがきで、岡崎はこう書きます。
“これは東京というたいくつな街で生まれ育ち「普通に」こわれてしまった女のこ(ゼルダ・フィッツジェラルドのように?)の“愛”と“資本主義”をめぐる冒険と日常のお話です。”
東京、ゼルダ・フィッツジェラルド、愛、資本主義……。
ジャン=リュック・ゴダールの映画を観に行くように、新しいロックバンドを聴きにライブハウスに行くよう
に、私たちは岡崎京子のマンガを買いに行き、新しい体験として読みました。
1996 年、交通事故により、岡崎は執筆が困難となりました。今回のプリント作品
は、岡崎の了承を得て、集英社マンガアートヘリテージが制作したものです。
『pink』(1989・マガジンハウス)、『私は貴兄のオモチャなの』(1995・祥伝社)、『うたかたの日々』(2003・宝島社)よりセレクトした4点のイラストレーションを作品化。岩野平三郎製紙所(福井)で作られた手漉きの越前和紙を用い、便利堂コロタイプ工房(京都)でプリントしました。コロタイプ印刷は、ガラス版を用い、網点ではなくグラデーションにより色の濃淡を表現するユニークな印刷技法です。鉛筆のラフなタッチから、ペンによる繊細な描線までを再現し、定着させました。
これらの作品を、伊藤若冲の「花卉(かき)天井図」と共に展示します。
伊藤若冲(1716 – 1800)は、江戸時代に活躍した奇想の画家。“升目描き”の技法で描かれた「樹花鳥獣図屛風」や超細密な描写の「群鶏図」などで知られます。「花卉天井図」は、若冲が晩年に住んだ京都深草の石峰寺観音堂に天井画として描かれ、現在は信行寺にあるもの。約33センチの円形の中に、多様な花々が描かれています。「花卉」は、観賞用に栽培される植物の総称です。
若冲が80歳を過ぎて描いたこの絵は、明治年間に、芸艸堂(うんそうどう)により彩色木版画『若冲画譜』としてまとめられました。この版木を用い、伝統的な浮世絵の技法を用いて制作。集英社マンガアートヘリテージの要望により、背景色を鮮やかな金で刷ったものが今回の展示作品です。あわせて円形のサイズがLPレコードに近いことに着目し、升目描きをイメージしたオリジナルの唐紙(からかみ)で仕立てたジャケットに収めました。
戦後高度成長期、東京・下北沢の理髪店に生まれ育った岡崎京子。
江戸時代中期、京都・錦小路の青物問屋に生まれ育った伊藤若冲。
四角いフレームの中で呼吸するモノクロームの女の子たちと、丸いフレームの中でくねるカラフルな花々。200年の時を越えて並ぶ、内容もスタイルも大きく違う作品。これらのあいだから、ゆっくり滲みだしてくる何かを、お楽しみください。
内観・紹介映像
本展の作家
1983年、『漫画ブリッコ』6月号でデビュー。『バージン』(1985・白夜書房)、『ボーイフレンド is ベター』(1986・白泉社)、『pink』(1989・マガジンハウス)、『東京ガールズブラボー』(1993・JICC出版局)、『リバーズ・エッジ』(1994・宝島社)、『私は貴兄のオモチャなの』(1995・祥伝社)、『ヘルタースケルター』(2003・祥伝社)、『うたかたの日々』(2003・宝島社)などを発表。
『ヘルタースケルター』で第7回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、第8回手塚治虫文化賞・マンガ大賞を受賞。1996年、交通事故により、作家活動を中断。2012年、映画『ヘルタースケルター』(蜷川実花監督)公開。2015年、個展「戦場のガールズ・ライフ」が東京・世田谷文学館で開かれた。
展覧会情報