
本展について
荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』の新作アートプリントを、東本願寺・白書院(京都府)にて公開。リトグラフ作品とレンチキュラー作品は、Minnesota Street Project(サンフランシスコ)で公開したものの日本初巡回展示となる。チケットは完売しました。当日券の販売〜会場での作品やグッズの販売はありません。
リトグラフ Lithograph
2025年6月〜、荒木飛呂彦は、9点のリトグラフプリント作品を描いた。集英社マンガアートヘリテージが依頼し、初めてのリトグラフ版への描き下ろしが実現した。
リトグラフは、200年以上の歴史を持つ版画技法である。日本語訳として「石版画」があてられるように、石に描画したイメージを紙にプリントする技術として始まった。高度な技術をアーティストに要求するエッチング(銅版画)と異なり、技術的にはより容易にイメージを複製できることから、工業的な技術として使われ始めた。19世紀以降、エドガー・ドガ(1834–1917)らが着目し、刷師と共同で、この技法でしか作りえないユニークな版画作品を制作したことから、美術作品として認められはじめる。
現在の印刷が、原画を写真撮影もしくはスキャニングしたうえで印刷用の版を作成するのに対し、リトグラフでは版そのものにアーティストがイメージを描く。現在では、石ではなく金属版にイメージを描くことが多く、今回も金属版を使用しているが、版に直接、作家がイメージを描くことは変わっていない。このため、リトグラフ用の鉛筆やチョークで描かれたイメージは、直接、紙に描いたかのような質感をもって、紙に転写される。
荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』は、1986年、「週刊少年ジャンプ」で連載がスタートした。現在、「ウルトラジャンプ」で、第9部となる『ザ・ジョジョランズ』が連載中である。第3部「スターダストクルセイダース」でとして発現する「幽波紋=スタンド」は、常にその持ち主に寄り添い(Stand by Me)、戦う。その姿は、人間に近い姿をとることもあれば、液体、気体、機械のように様々な姿をとりうる。
今回、荒木飛呂彦が初めてリトグラフ作品を描くにあたり選んだのは、次のキャラクターとスタンドである。
空条承太郎/スタープラチナ
DIO/ザ・ワールド
東方仗助/クレイジー・ダイヤモンド
ジョルノ・ジョバァーナ/ゴールド・エクスペリエンス
空条徐倫/ストーン・フリー
ファニー・ヴァレンタイン /D4C (Dirty Deeds Done Dirt Cheap)
岸辺露伴/ヘブンズ・ドアー
広瀬康穂/ペイズリー・パーク
ドラゴナ・ジョースター/スムース・オペレイターズ
通常、マンガの本文はモノクロで描かれる。その絵は、製版の過程で、はっきりした黒と白の2値データ化され、活版輪転印刷でプリントされる。すなわち、鉛筆や墨の濃淡は再現されない。
今回の作品は、リトグラフ用の鉛筆とチョークが用いられ、作家が描いた線がそのまま再現される。一度描いた線は消しゴムなどを使って消せないこともあり、アーティストは緊迫感を持って手を動かすことになる。一方、我々はそこに、ゆったりと伸びる描線のたくましさや、すっと伸びる線の正確さと心地よさ、ざっくり粗く描かれたシャドウのリズムなどを感じることになる。
版画は、板津悟(善福寺石版画工房)が担当。9作品、各100部が制作される。
レンチキュラー Lenticular Works

レンチキュラープリントは、シート状の「レンチキュラーレンズ」を貼り、イメージをアニメーションさせたり、立体的に見せたりするプリント技法である。今回の作品では、イメージを立体的に見せる技法を用いている。
人間の両眼が持つ視差を利用することで立体視を実現するレンチキュラープリントは、単眼であるカメラの撮影ではその効果を再現することができない。人がその両眼で見たときにのみ、最大の効果を持って現出する。パララックス(視差)バリアとして知られるこの技術は、100年以上の歴史を持つ。1915年にはアメリカで特許出願された記録があり、1940年代にはパリで3Dレンチキュラーのプリントサービスを行うスタジオが開業している。60年代にはカラーのレンチキュラープリントの大量生産が可能となり、爆発的な人気を得た。絵葉書などお土産として作られるものが多かったが、大画面のプリントの作成も可能になったことで、ファインアートのプリント作品にも用いられることとなった。
今回、第1部〜第9部の主人公の印象的なシーンを横幅約1メートルのサイズで作品化した。
第1部 ジョナサン・ジョースター
第2部 ジョセフ・ジョースター
第3部 空条承太郎/スタープラチナ
第4部 東方仗助/クレイジー・ダイヤモンド
第5部 ジョルノ・ジョバァーナ/ゴールド・エクスペリエンス
第6部 空条徐倫/ストーン・フリー&エルメェス・コステロ/キッス
第7部 ジョニィ・ジョースター/タスク ACT4
第8部 東方定助/ソフト&ウェット
第9部 ジョディオ・ジョースター/11月の雨(ノーヴェンバー・レイン)
近寄り、遠ざかり、左右に歩きながら、瞬間であるはずのシーンを、拡張された時間のなかで鑑賞する。マンガという表現形式とレンチキュラープリントの技法が結合した、新たな体験が得られるはずである。
内観・紹介映像
本展の作家
1980年、『武装ポーカー』で第20回手塚賞に準入選し、「週刊少年ジャンプ」でデビュー。1986年から同誌で『ジョジョの奇妙な冒険』の連載をスタートする。日本国内のシリーズ累計発行部数は1億2000万部を超える。2025年現在、「ウルトラジャンプ」に『ザ・ジョジョランズ』を連載中。
2009年、ルーヴル美術館の企画展に参加。『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(Rohan au Louvre)を発表。2013年には、全世界のGUCCI直営店でコラボレーションワークが展開される。2018年、国立新美術館(東京)で「荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋」を開催。現役のマンガ家の個展が国立の美術館で開催されたのは、これが初めてである。
展覧会情報
関連情報